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貴重な8ミリフィルムをゴミにしないために

 墨田区亀沢の「レトロ通販」(一九九七年十一月開店)はアジアで唯一の8ミリ専門店。「時代に逆行している」と店主の神山(こうやま)隆彦さん(43)は笑うが、8ミリ映画に関する“駆け込み寺”として国内外から頼られる存在だ。
 8ミリ映像には「味があり、しっとりした温かみがある」と神山さん。ビデオとの違いは優劣ではなく、「例えるならクワガタとカブトムシです」。二〇〇五年からフィルムの生産と現像も自社(レトロエンタープライズ)で始めた。
 小学五年から父の影響で8ミリに没頭した。最初の撮影はお正月風景で、一巻三分強のフィルムをどう撮るか熟考した経験はのちの仕事にも生かされる。中学時代も修学旅行などを撮影したが、八〇年代、ビデオが普及すると「8ミリは恥ずかしく感じられ部屋の隅でゴミになっていた」。京都外語大時代は、ビデオで結婚式場のアルバイトを続け、三年の時からはビデオ機器販売や撮影を請け負う事業で成功。卒業後も五年間続けたのち、ドイツ国営放送を経て「ロイタージャパン」に入社、映像編集のプロとして経験を積む。
 ただ、業務用機器を自由に使える立場は楽しい一方、「願望が簡単に達成しちゃう」寂しさも。九〇年代半ば「原点に戻ろう」と再び8ミリを手にすると、英語やドイツ語で海外業者と交渉し関連品を購入。現在の商売は、増えすぎた所持品処分のため通信販売の広告を出した際の反響の大きさががきっかけで始めた。
 映写機が壊れ、大切なフィルムを泣く泣くゴミに出す人が「ホントに多いんですよ」と残念がる神山さん。同店ではカメラや映写機の修理・販売をはじめDVDやブルーレイへのダビングもする。大林宣彦監督の学生時代の8ミリ映画のDVDダビングも請け負い、その作品群は後日、「大林宣彦 青春回顧録」として市販された。昔のライブ映像のダビングを依頼したミッキーカーチスさんは、その礼に「店でギター演奏をしてくれました」。ほかにも歌手・立川清登さんの遺族から生前の映像が持ち込まれたり、松任谷正隆さんからカメラの修理を依頼されたこともある。
 一方、神山さんと映画とのかかわりでは二十三歳のころ、語学と機器操作の技能を買われて映画「ブラック・レイン」のビデオモニター操作を担当。大阪ロケの一か月間、マイケル・ダグラスやアンディ・ガルシアらと同じ時間を過ごしたことは良き思い出だ。現在は同店の商品が映画の小道具によく使われ、「ALWEYS 続・三丁目の夕日」では映写機やカメラのフラッシュ玉を提供。操作や設置にも協力した。
 手回しの映写機を学研と共同開発したり、昔のテレビの外観に現代のブラウン管を入れたアイデア商品も販売。「フジカシングル8」のCMに出た扇千景さんが錦糸町を街頭演説のために訪れた際、神山さんは急いでこのカメラを取りにいき、扇さんに見せると「まあーなつかしいわあ。私にも映せます」と笑顔で手にしたとか。そうした神山さんの行動力とバイタリティーは同店の魅力にもつながっている。
 同店は墨田区亀沢四の一二の九TEL 3829・2776。