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墨田の伝統工芸界に新しい風 世代交代 30〜40代の職人が中心に

 職人、しかも伝統工芸といえば、熟練した技を身につけた高齢の人を思い浮かべる人も多いかもしれない。職人工房の多い墨田区では世代交代が進み、今や30〜40代の伝統工芸職人が中心になりつつある。
 東京スカイツリータウン内にある「産業観光プラザ すみだ まち処(どころ)」(墨田区押上)では、11月1日から13日まで「大江戸すみだ職人展」が開かれた。区内の伝統工芸職人の技をPRする目的で開かれる職人展は、目の前で職人の手仕事を見せる実演販売も人気だ。昨年は墨田区役所隣の「すみだリバーサイドホール」(吾妻橋)で開催したが、今回は新名所の敷地内ということで、女性客や若いカップルなどの来場者も多く、かつてなくにぎわったという。
 会場の一角に設けられた実演コーナーでは、江戸切子職人の山田真照さん(39)(立花)が熱心に見つめる来場者を前に、研削盤で切子の模様をつけていた。山田さんは、祖父の代から続く切子職人の3代目。夜間学校に通っていた19歳の時に、父の誘いで昼間に仕事を手伝い始めた。20年を経た現在は、小学校などで切子の技術を紹介する活動もしている。

家業の継承は自分の意思で

 職人の家に生まれても家業の継承は自分の意志で、というのが現代の世襲というべきか。「祖父の死を機にこの仕事に入った」のは、真鍮(ちゅう)や銀の板で動植物を表現した和の装飾品・錺簪(かざりかんざし)を作る三浦孝之さん(45)(東駒形)だ。広告代理店でデザイン作図を担当していた三浦さんは、26歳の時に祖父が他界し、家業の途絶える可能性を考えて4代目となる決意を固めた。同じく会社勤めを経て桐箪笥(きりだんす)職人となった田中英二さん(48)(立花)も、次男なので家業を継がなければというプレシャーはなかったが、「形に残るものを作る、伝統的に受け継がれていく仕事の大切さが、外に出て分かった」と言う。「鼈甲(べっこう)磯貝」本家の3代目べっ甲工芸職人、磯貝英之さん(40)(横網)も、大学卒業後、食品メーカー勤務を経て父・一さん(71)に師事した。

ユーザーらの生の声生かす

 受け継いだ伝統技術をいかにつないでいくか。バブル経済崩壊後の不況を経験した世代の課題のようだ。「景気の良かった先代の時代とは置かれた状況が異なる」と言う田中さんは「時代に合ったものづくりをしようという意識はみな強い」と、職人仲間について語る。かつては問屋の発注に合わせて製作していた商品も、実演販売などでユーザーらの生の声を聞きながら、新たなアイデアが加わることも少なくない。例えば、江戸末期(慶応3年)から続く足袋仕立て「向島めうがや」の職人石井健介さん(35)(向島)によると、常連客の注文で増えてきた外反母趾(がいはんぼし)の足に対応する足袋を一昨年から既製品として作ったところ好評だという。
 一方で、伝統工芸品が伝える豊かな日本文化を、生活様式が変化しても守っていこう、という気概もみられる。錺簪職人の三浦さんは、女性が日本髪を結う機会の減った中で、自分の代になってから歌舞伎などの舞台用装飾品の製作を仕事先として開拓した。金属の板から作る繊細な花や生き物にはそれぞれ古くから伝わる意味(吉祥(きちじょう)=良い兆し=性)があり、〝動植物を身につけて力をもらう〟という簪の文化を伝える。「敢えて〝アクセサリー〟にならないように差別化している」というこだわりもある。時代の風を読みながら伝統の技を守る職人たちの挑戦は続く。
 (江戸川区立小岩第四中学校2年生の岡田早代さん、本木連君、石塚大智君、西村拓海君が本紙記者に同行して取材しました)