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冬を迎える被災地への支援物資が「なぜ消火器?」

 山あいの小さな峠を越えると無人の集落が広がっていた。福島県伊達郡川俣町山木屋地区、東京電力福島第一原発事故による放射能汚染で計画的避難地域に指定された地区だ。
 11月14日、江東ロータリークラブが行なった川俣町の避難所への支援物資搬送に同行取材した。支援物資は消火器120本。10月の江東区民まつりに川俣町が参加し、その折、冬に備えての支援物資として永田嗣昭副町長から依頼されたものだ。同ロータリークラブ幹事の犬塚邦彦さん、小嶋映治さん、深川消防団第八分団の大高弘昌さんがワゴン車で運び、消火器メーカーの株式会社モリタ防災テックと江東区が協力し、現地では同町出身の江東区議・佐藤信夫さんも協力した。
 が、「なぜ消火器?」と同行しながら疑問が湧いた。冬への備えなら暖房器具や防寒具などほかの支援物資がありそうだからだ。その疑問は現地で氷解した。
 川俣町は福島県の北部にある人口約1600人の町で、福島第一原発からは北西に40キロほど離れているものの、風で放射能が帯のように飛散した地域だ。町の中心部は峠の手前にあるため放射線量が低いが、向こう側の山木屋地区は原発側にあり、全世帯が仮設住宅に移った。だが、若い世代や子供たちは福島市や伊達市に避難し、69人いた消防団員もばらばらになり、2か所ある仮設住宅(160世帯と40世帯)に入居したのは平均年齢70歳以上のお年寄りたちだ。しかも今回支援した160世帯の仮設住宅には、消火器が1棟(長屋形式で6世帯)に1本しか備えられていなかった。火事の場合、初期消火に不安があり、お年寄りたちが消火器をすみやかに使えるかも不安だった。大震災で助かった命を火事で落とすことがないように、支援物資に消火器を依頼した同町の方針に納得させられた。
 一行を出迎えた古川道郎町長は、各世帯に1本ずつ行き渡ることに感謝し、早速広場で消火訓練が行なわれ、お年寄りたちが入れ替わりで消火器を操作した。「火事だ!」と大声で周囲に知らせ、消火器のピンを抜く。軽量の最新型の消火器は楽に片手で持つことができ、放水も簡単で、「(この訓練で)火事になっても慌てなくてすむ」とお年寄りたちは安心していた。ただ、「家族そろっていつ山木屋に戻れるのか……」と放射能汚染への不安と不満を口々に語っていた。
 訓練の後、一行は副町長が先導する車に続いて山木屋地区に入った。記者を含め4人に線量計が渡され、車内で測りながら進んだ。線量計は0・3マイクロシーベルトで警報が鳴るように設定されている。峠に近づくと4台とも警報が鳴り始め、0・4、0・5と小刻みに数値が上がり、車から降りて道路わきの草地を測ると2・0を越えるホットスポットもあった。さらに山木屋地区を縦断し、隣接する浪江町(全町民が避難)との境で再度車から降りて草地を測ると、9・0に一気に跳ね上がった。
 川俣町は国が今月末から除染を始めるモデル地区になっている。が、その成果は未知数だ。山木屋地区をはじめ、原発事故で苦しむ多くの人たちが元の生活に戻れるのを祈りながら、一行は川俣町を後にした。