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ヴィトンのトランクが語る旅行の変遷

 「トランク一つから色々な物語が出てくるんですね」――。昨年12月、深川資料館通りにデザインミュージアム「ガレット」(江東区三好)を開いた工業デザイナーの前田勝介さん(65)は、自身が所有する古いルイ・ヴィトン製品やその関連品などを順次一般公開している。現在は「タイタニック号とルイ・ヴィトン大型トランク」展を開催中だ。
 前田さんは家具などのモダンデザインを生業として、イタリア・ミラノに1975年から3年ほど滞在。当時、古いヴィトンのまるで家具のような大型トランクの展示品を目にしてデザイナーとして衝撃を覚え、それ以降ヴィトンのものづくりと広告、販売手法を含めた企業戦略全般に興味を持ち、製品や資料を集め始めた。その魅力は「企業として成功している点」であり、美を追求した堅実なものづくりの姿勢のみならず、時代を捉えた広告などハードとソフトの両輪で「うまくビジネスを進めていったところ」という。
 収集品はアンティークトランクが主で、1880年代から1960年代の受注生産品。これら約100点に小物や広告資料などを含めると約300点にもなる。旅行の〝お供〟として発売されたヴィトンのパズル、時計、キーリング、玩具、人形など珍しい品も。これだけの量を保有し、公開している人は世界的にも見当たらないほどだ。
 創始者のルイ・ヴィトンが世界初の旅行用鞄(かばん)専門店をパリに開業したのは1854年。産業革命以後、文明が交通を発達させ、豪華客船や汽車、車、飛行船などを利用した「旅行」という新分野が誕生し、富豪たちのステータスとなる。旅行形態が激変する時代のなか「試行錯誤しながら進んでいったのがヴィトン」(前田さん)。例えば、船の客室に置かれたベッド下の寸法に合わせたキャビントランク、一人用エレベーターのサイズを意識したトランクなど、利便性と合理性を追求した。
 丈夫で水に強い製品づくりもヴィトンのこだわり。一方、旅行用品の販売は富豪を相手にした商売でもあり、例えば身分の象徴でもあったシルクハットを入れるハット・トランクや、シャツの替え襟を入れたと思われる革製カラー入れなどから、その時代が垣間見える。
 製品以外にも、ポスターやカタログ、広告素材などを所有。雑誌「ヴォーグ」(1910~40年版、約40冊)にもヴィトンの広告が見られるが、当時の同誌にはジャポニズムの影響と思われるデザインがあり興味深いという。ヴィトンが賞を受けた1867年のパリ万博には日本も参加しており「軽くて水に強い輪島塗の漆器や、着物の柄などを(ヴィトン関係者が)見て興味を持ったと思います」(前田さん)。
 ヴィトンの知識が豊富な前田さんだが、研究者とは違い、その時代に思いを馳(は)せて「俗世の話題として楽しむのがスタンス。来館者から色々お話を聞かせてもらい、半分教えてもらっています」。今後この空間が、ヴィトンやその時代のものづくりなどを語らう交流の場になればと前田さんは願っている。
 現在の展示は8月18日にいったん区切り、展示品を入れ替えて8月22日から第2部が始まる。その次のテーマは「ルイ・ヴィトンの汽車の旅」(11月22日~)。入館料は500円。休館日は月曜と展示入れ替え時期、年末年始。所在地は江東区三好3の8の5電話090・6191・3005。